自然農 川口由一の世界

自然農の世界では、川口由一さんという方が有名であるらしい。
名前だけは知っていたような気もするが、関係するような本はいままで読んだことがない。
こんな不勉強な事ではいかん、と思い、「自然農 川口由一の世界」を取り寄せて読んだ。
鳥山敏子さんとの対話形式になっている本で、読みやすい本でした。

さすがに皆さんに慕われている通りの素晴らしい方です。
特に凄いなと思ったのは、農家に生まれて20年間慣行農法をやり続け、その後自然農に切り変えて以後25年に渡って継続されて来ている、という点です。
まったく新規に参入するのもなかなか大変な事ですが、地域に生きてきた農家の方が、いきなり栽培法を変えて人と違うことを始めてしまう、というのは、更に困難な道ではなかったかと思います。
近所付き合いもあり、地区のしがらみもあって、その中で生きていかなくてはならない立場の農家が、そのしがらみを断ち切って自らの信じる道に進むということは本当に勇気のいる行為だったと思います。更に最初の二年は大失敗、収入のない年が五年も十年も続く中で続けていく、というのは経済的な問題もあり、家族がいて生活していかなくてはならないのですから、大変困難な道だったと思います。
勿論本人にとっては、苦しくても喜びのある生活だったのではないかと思います。
精神的に満足した充足感がなければ、さすがに続けてくる事はできなかったと思いますし。

特に今は米作りの場合ですと、ライスセンター方式が一般的です。
田植え・防除・収穫作業等は共同購入した大型機械で共同作業を行うのが普通です。
慣行農法をしている地区のなかで、自分だけが無農薬の自然農に取り組むというのは、したいと思ってもそう易々と始められる事ではありません。
どうしてもという事になれば、もう近所付き合いは断ち切って村八分になる事を覚悟しなければならないでしょう。自分だけではありません。年老いた両親がおり、小さい子供もいるでしょう。家族からの反対は想像に難くありません。家族が安心して生きていけるようにと思えば、もう自分の気持ちは押し殺す以外にはありません。

幸いな事に、私は脱サラの新規就農とはいえ、当地は私が生まれ育った故郷です。現農家の当主は、皆幼馴染ですから、特に気を使うこともなく、皆も「まぁ、勝手にやってれ。」とほおって置いてくれたので、最初の頃は地区の事はまったく無視して、純粋に農業に専念出来たわけです。今は地区の行事にも参加して、それなりに溶け込んではいます。
私も田舎生まれとは言え、20年も札幌でサラリーマンをしていましたから、発想は都会的です。
「お互いに必要以上は干渉しあわず、それぞれ勝手に生きていったら良いのではないか」と思います。
しかし、田舎で生まれ育ち、これからも死ぬまでここで生きて行かなくてはならない宿命のある農家の方たちは、どうも発想が違うようです。
私も農家の人と話ししていて、疑い深い事とか、そんな発想をするのかと驚いた事があります。

ここのところは、サラリーマンの会社生活を考えてみると良く了解できます。会社の行事には、忘年会であれ、新年会であれ、万難を排して出席しなければなりません。都合が悪いから欠席するという訳にはいきませんし、そうする事はかなり勇気のいることです。
自分が違うと思っていても、上司の命令には逆らえませんし、人間関係にも気の使うところです。もう仕事が嫌だなと思っても、朝になったら出社しなければなりませんし、勝手に有給を取ってのんびり休む訳にもいきません。 都会では、あくまでも会社という組織の中にあって始めて生存していけるのです。 
脱サラして田舎に行くと、そこにはもう勤めるような会社組織はありません。
しかし、そこには地区という組織があるのです。何もないわけではありません。
長年に渡って築き上げられてきた地区という組織があるのです。
都会では会社という組織に属しなければなりませんが、田舎では地区という組織に属さなければなりません。 世捨て人になるわけではありませんから、完全に組織から離れて暮らすという訳にはいかないのです。

サラリーマン時代にこの本を読んだとしたら、ヘェーと思うだけで終わったかもしれません。
でも今は、曲りなりにも、新規就農して五年間、いろいな農業経験や苦労を味わいましたので、自分の体験から照らして考えて見ますと、自然農に切り替えた栽培技術もそうですが、未だに近所で自然農に切り替える人はいない、ということですから、地区の中で孤立無援で自らの信じる道を進む事の大変さと、難しさには相当なものがあったことと推察します。

結局のところ、環境問題がどうしたとか、人の生きる道はどうだとか、口では何とでも言えるのです。
特に有識者の方々、(私達は無意識者か?) は自分の生活とは直接関係ないことですから、美しい言葉で好きなことが言えるのです。
自分の言うことに、それに徹して、自らの人生として生ききる、というのは誰にでもできる事ではありません。
川口由一さん。 これから自然農への道を歩もうとする私にとっては、目標となる、尊敬できる方であると感じます。

 おくも自然農園   1999年、兵庫県篠山市に移り住んだ長田さんご一家です。
 化学会社から脱サラして自然農法に取り組まれています。
 暮らしを伝える、やまざる通信が充実しています。

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