お気楽農民への道

今から六年程前、農業をやってみる事を決心したのだが、どのような経営形態を目指したら良いのかに悩んでいた。一口に農業といっても、その分野は畑作・野菜・稲作・花卉・果樹・酪農・畜産等に分れさらに作物毎に細分化していくわけだから、その組み合わせ方は無数にある。
その中から一番実現可能性のあるものに絞り込んでいかなくてはならない。
そうして雑穀に辿り着いた。自身、きび・あわなどは玄米に入れて食べていた。健康食品店に行けばどこででも売っている。でも国内で栽培している人は少ないらしい。ならば無農薬で雑穀を栽培して健康食品として栽培すれば需要はあるかもしれない。元手もあまりかからない。基本が決まった。
しかし、雑穀類、きび・あわ・ひえは全部イネ科作物。畑は毎年米を作れる田んぼと違い、同じ作物を毎年作り続けると連作障害によって収穫できなくなる。その原因ははっきりとは究明されておらず、回避方法は誰にもわからない。そこで昔から行われてきた輪作(毎年作物を替えて作っていく方法。三年から五年位で一回りするようにグルグル回しながら栽培していく方法) によらなければならない。
イネ科以外で何か有望な輪作作物が無いだろうか? 勿論、販売できなければ意味がないので、何でも良いというわけにはいかない。勿論無農薬・無化学肥料であるから、この荒っぽい作り方にも耐えられる強靭な作物でなければならない。F1野菜ではどうしても無理があるように思われた。
何かないだろうか? 何かこれだというものはないのか?
こうして辿り着いたのが「麻」であった。
当時は既に「麻の実ナッツ」が販売されていた。勿論国内ではできないので輸入物である。
実際に取り寄せて食べてみるとこれが結構おいしい。料理の食材としても使えるが、生でもそのまま食べられる。くるみのようなナッツのような、独特の深みのある美味しさだ。
早速友人知人に配って試食をお願いしてみる。評判は良かった。
もしこれが国産でできれば、有望な輪作作物のひとつになる。よし、これをやろうと決心した。

だけど「麻」って「大麻」のことじゃないのか? 警察が必死で取り締まっているご禁制の「たいま」じゃないか、いくら実が食べられると言ったって、そんな危険なものを栽培して良いのだろうか?
「大麻=麻薬=犯罪=暴力団」、私もごく世間並みなイメージを持っていた。
市販されていた大麻関係の本は全て取り寄せて読んだ。(今はインターネットに優良サイトが沢山あります。) 読んでみたけど疑問は取れない。そうであるような気もするし、そうでないかもしれない。
「大麻は麻薬」という先入観念はそう簡単に払拭できるものではない。
ここはひとつ、自分の目と耳で確認する以外にはない。そう思って冬の間三ヶ月間の東南アジア旅行にでかけました。国内にいて研究することはできないので、比較的緩やかと言われていたアジア各国の現状に触れてみて、実際のところを確かめて見たいと思ったのです。
面白いエピソードも沢山あるのだが、ここのところを詳しく書くと長くなってしまうので割愛します。
勿論三ヶ月程度の旅行ですぐ結論の出ることではありませんが、どうも大麻は麻薬というのはウソらしいという事ははっきり解りました。
その後もコツコツと勉強を続け、ついに「麻は栽培しても何ら問題の無い植物である、いや栽培するべきである。」との確信を持つに至りました。
そして二年後の平成13年7月から、栽培免許を取得すべく、行政との交渉が始まりました。
大麻は麻薬であるとして取締りの対象になっている現状のなかで、栽培の理解を得ることは実に困難な道のりでしたが、無事免許も取得する事ができ、今年やっと麻の栽培まで辿り着くことができたのでした。

「麻・豆・雑穀」、この三年輪作体系で取り組めば、生活していける山間地農業が確立できるかもしれない。私の胸は希望で膨らみました。
実際に栽培してみた結果は、「大麻の栽培」のとおりです。ある程度は予想していた事でしたが、ある程度の収入が確保できるようになるまでには、これからもまだまだ茨の道が続きます。脱サラ農民となってすでに五年が経過し、毎年赤字決算です。まともに収入のない年が毎年続く状況の中にあって、これからも栽培管理が実に大変な麻を作り続けていくことは、物理的に無理があります。
僅かな貯金も底をつきました。継続して栽培していく事を断念しました。

こうして大切な柱である麻の継続栽培は断念することにしましたが、では雑穀と豆だけで専業農業が成り立つかというと、これは難しい。作るだけではなく、販路の問題もあるのでこれだけでは難しいのだ。例えば、昨年までは卸売りをしていたのだが、一年間の総売上は160万だった。
収穫後の調整出荷に丸半年かかってしまったので、栽培から出荷までに丸一年要した事になる。
収入を総労働時間で割ってみると、時給約440円位になる。これ位だとギリギリなんとかなりそうな金額ではあるが、雨の日以外は休みも無く、朝から晩までの重労働であることを思うとあまりペイする金額ではない。実際には経費で100万位かかるので、粗利益に対する労働収入は時給170円となる。
さすがにこの金額では、頑張れば何とかなるという限度をはるかに超えてしまう。
やればやるほど赤字になってしまうのだから、やらない方がずっと良いというおかしな結果になってしまうのだ。
少ない収入を増やす為に作付け規模を拡大すると、機械導入等の経費が跳ね上がる。かつ、作りすぎてしまっては、販路の確保が難しくなってしまう。二重のドツボにはまってしまうのだ。

さてどうしたもんか、と考えてみましたが、農業自体はとても楽しい。田舎の生活も捨てる気にはならない。これはこれで維持しつつ、かつ生計の立つ別の方法も見つけなければならない。どうすればよいのか? 色々考えましたが麻栽培を断念すると共に専業農家になる事はスバッと諦め、来年からは二足のわらじ・兼業農家になる事に進路変更しました。
考えてみると日本のほとんどの農家は兼業農家です。専業農家でも大変な時代に何も持たないものが専業農家になろうとするのは、ハナから無理のあることだったかもしれません。

冷静に良く考えてみると、北海道の畑作の場合、耕作するのは5月から10月までの6ヶ月間だけです。
そこで農業は5月から10月までの半年間やる事とし、11月から4月まではまた別の仕事をして収入を得る、こうした方法が一番良いのでは、と思い、来年からは半農半Xの生活へと若干の軌道修正をすることにしました。
もともとなんとか生活して行ければ良いと、お気楽に始めた農業です。
9ヶ月間は日本で働き、残り3ヶ月間は海外でのんびり暮らす、という「お気楽農民への道」を思い描いていたのですが、残念ながらこれはひとまず断念する事とし、来年からは「半農半X」の生活に向けて再スタートです。
これからは「X・エックス」を求めての探求が始まります。

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